「アラブの春」のリーダーはグーグル・マーケティング部門に勤める若者だったのか
グーグルに勤めるワエル・ゴニムという若者をご存知だろうか。
日本では、”アラブの春はソーシャルメディアを通じて既存の社会体制に反発する若者が団結し、既存体制(政府)を打倒した。その後、こうした民主化運動はアラブ社会を越え、夏には民主国家であるイギリス、夏の終わりからはアメリカで今も続くOccupy WallStreet運動へとつながった。これまでの民主化運動との違い(特徴)は、カリスマ的なリーダーが存在せず、ソーシャルメディアを通じて大きなうねりになっていった点にある”という報道、認識が一般的ではないだろうか。
しかし、ニューズウィーク(2011年11月 9日号)の「アラブの春の立役者は脚光が嫌い(The martyr who wasn’t)」によると、ゴニムは「エル・シャヒード(殉教者)」というユーザーネーム(匿名)でFacebookページを運営し、エジプト革命に火をつけたと言われている。
ゴニムは革命運動にリーダーは必要ないと考えており、「自分はリーダーでない」と言い続けている。
しかし、もはやソーシャルメディアを基盤とした社会運動は世界に広がっており、その魁ともいえるエジプト革命の主導者となると放っておかれるわけがない。当然、ゴニムには世界中から注目があつまっており来年1月には「革命2.0」という著書が発表される予定になっている。
一方のゴニムは脚光をあびるのをさけており、ムバラク政権崩壊後は、活動自体も活発ではないようである。この背景には、思いもよらず一躍、革命のリーダーに祀り上げられたことがあるようだ。
ゴニムは、もともとユーザーネームを使っていることからも分かる通り匿名で、主張を繰り広げていた。ゴニムによると「匿名だから人々は私を信用した」ということだ。
実名だと、人々はメッセージよりも発信している人物に注目し、メッセージの内容よりも人物に対して反発する可能性があるという考えがあるようだ。
ゴニムの考えは尊重するが、逆の考えもある。メッセージが同じ立場の若者から発信されたが故に、共感を呼び、広がっていくという考えだ。有名人であれば、人々はなんらかの背景(利益誘導)があるのではと考えるかも知れないが、普通の若者であるゴニムの場合、メッセージより人物が注目されることにはならなかったのではないか。ただ、繰り返しになるが、私はエジプトという国、当時の空気などまったく知らない外国人である。正直に言うと、私のソーシャルメディア上にはエジプト革命に関するエジプトの若者の声は一切、流れてこなかったし、”アラブの春”についてはテレビ、新聞で知った。
また、ゴニムは有名になることで堕落することを恐れていた。「誰もが善意で始めるが、やがて堕落する。マスメディアによって世界に紹介されるからだ」
これは分かるような気がする。人は多かれ少なかれ自己顕示欲を持っている。フェイルブックの本質について、発祥の地であるハーバード大学のクリムゾン紙はこう言っている。「ザ・フェイスブックの本質は、自分はいかに重要な人物であるかを世界に向かってうったえかけるためのパフォーマンスの舞台である」
皮肉なことに、ゴニムは、まさにこのことを体現したといえる。
さらに、エジプトではリーダーとは権力者であり、権力をもった者は必ず私腹を肥やすという考えがあることも、リーダーと呼ばれることへの拒絶につながっているようである。
その結果、エジプトはムバラク政権を打倒したものの、その後に体制を築く段になってジレンマに陥る。新しいエジプトを構築するにはリーダーが必要だからだ。結果、今はエジプトは軍最高評議会が統治しており、大規模デモが繰り広げられている。
アラブの春で旧政権を打倒した国の経済見通しはいずれもマイナス成長というデータもある。
ソーシャルメディアは、民主化運動にふさわしい民主的なコミュニケーション基盤だとは思う。しかし、悪しきものだったにせよ長年続いた体制を変え、新しい体制、国体を築くためはリーダシップというものが必要なのかもしれないし、ソーシャルメディアを基盤としたリーダーが登場してもいいのではないかとも思う。
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